「…でも…」
雪の残るベランダで。
祐一が背中から、まるで何かに怯えるようにわたしを抱きしめて。
「…あったかいよ、祐一……」
背中から伝わってくる体温が嬉しくて。
どきどきが、止まらないよ…。
「名雪も…あったかいぞ…」
そっと、わたしの肩にかかる祐一の手に触れてみる。
祐一の手は大きくて、ごつごつしてて…いつか繋いだときよりずっと、冷たかった。
髪の毛にかかる息づかいが、ちょっとくすぐったい。
「ずっと…ずっとね……こうしてほしかったんだよ…」
「ごめんな…長いこと待たせて……」
「ううん……もう、放したら嫌だよ…」
「ああ…」
「ずっと、つかまえててね…」
「ああ…」
「約束」
「ああ、約束する」
「うん…嬉しいよ…」
そっと祐一の腕の中で向きを変える。祐一と正面から抱き合うかたち。
あったかい祐一の胸板に顔を埋めて、頬ずりする、すりすり。
「祐一…」
「ん…?」
「約束のしるし…」
「え?」
「約束のしるしがほしい…」
「……指切りでもするか?」
「違うよ…」
「ん?」
「祐一、鈍い…」
ぎゅっ。
本当に判らないって顔の祐一を、抱きしめる。
鈍くて、意地悪で、無愛想で、でも可愛い、大好きな祐一。
「キス…して……?」
言って、目を閉じる。
上を向く。心持ち。
女の子はみんな、無意識に、大好きな男の子に甘える方法を知ってるんだと思うから。
「な、名雪…」
閉じた瞼の向こう側で、祐一が戸惑っていた。
肩に置かれた手に、ぎこちなく力がこもる。
「…待たせちゃ、嫌だよ……」
「名雪…」
それから少しだけ時間があって……唇に、冷たくて柔らかい感触…わたしの、ファーストキス。唇を合わせるだけなのに、それは何故かとっても不思議な感じがして…わたしたちは長いこと、そうしていた。
想像して憧れていたのとはちょっと感触が違ったけど…でも、大事な、わたしのファーストキス。
「ね、祐一…」
「何だ?」
「わたしのファーストキス、祐一とで…嬉しいよ」
「…俺も嬉しいぞ」
「キス?」
「名雪が、俺を待っててくれたことが」
「うん…」
ぎゅっ。
祐一の腕に力がこもる。
あったかくてどきどきしてる、祐一の胸。
たくましくて厚い、男の子の肩。
…祐一って、こんなに背、高かったっけ……? もう二週間も一緒に暮らしてるけど、今まで全然気付かなかったよ…。
「祐一…」
「ん…」
「祐一って男の子なんだね…」
「…え?」
「今、すごくそう思ったんだよ…」
「……そうだな。俺も今、名雪は女の子なんだってすごく思う」
「…どんなところ?」
「もうここに来てから二週間になるけど、名雪がこんなに小柄だったなんて知らなかった」
思わず、少しだけ微笑む。
祐一と同じことを考えてたことが、嬉しくて。
「それに…」
すぐ目の前で笑っていてくれる祐一。
それだけで、胸がどきどきしてくる。
好き。
大好きだよ、祐一。
「こんなに名雪が好きだったなんて、判らなかった…」
「祐一…わたし、嬉しいよ…」
祐一の手が、優しく髪を撫でてくれる。
優しく、力強く抱きしめてくれる。
「幸せ、だよ…」
この幸せな時間が、ずっとずっと続けばいいな…。
今日が終わらなければいいな…。
七年前のあの冬も、そう思ってたけど。
だから…勇気を振り絞って、祐一に告白したけど。
幸せな…一緒にいる時間を、つなぎ止めたくて。
でも……。
「幸せすぎて…怖いよ…」
幸せ。
とっても幸せ。
だから、不安になる。
この幸せが、いつかどこかへ行っちゃうんじゃないかって。
それって、贅沢なことなのかも知れないけど…。
でもやっぱり不安、だよ…。
また祐一がいなくなったら……その時わたしには、何ができるだろう…。わたしは、祐一をつなぎ止める何かを、持ってるのかな…。
「名雪」
優しい声。
いつしか泣いていたわたしを慰めるように背中を撫でてくれる、あったかい手のひら。
「俺は名雪が好きだから……名雪と、ずっと一緒にいたい」
真剣な目で、それだけ言ってくれるから。
とっても安心する……不安はまだ消えないけど、やっぱり怖いけど……信じてるよ、祐一。一緒にいれる、きっと。
「うん、わたしも……」
「だったら、大丈夫だ」
「うん…そうだよね」
また涙がこぼれてくる。
今度は、嬉しくて。
…大好きだよ、祐一。
ずっと…ずっと、つかまえていてね。
もしわたしが道に迷って祐一の手を放しちゃっても。
強く抱き寄せて、つかまえていて…。
Von fernem Hier mit dem herzlichen Gebet.
01/10/28 橘 和馬