二月も終わりに近付いた、暖かい日。
人もまばらな教室で淡々と授業を続ける教師の声。
教師が黒板にチョークを叩き付ける動きにあわせて、生徒たちの手が気怠げにシャーペンを動かしていく。
面白くもない話。
教師も生徒も、心ここにあらずといった様子で、授業は進んでいた。
そして、チャイム。
何も言わずに出ていく教師。すぐさまざわめきに包まれる教室。何の変わりもない、これが日常。
廊下側の席にぽつんと、赤い髪の少女が座っている。
誰の話の輪にも入ろうとせず、ただ、黙々と日誌にペンを滑らせていた。
時折、窓の方を見遣り…また、視線を日誌に落とす。
それの繰り返し。
時間はゆっくりと過ぎていった。
やがて、チャイムも鳴り、つまらない授業が始まるだろう。
非日常なことは何も起こらない。
退屈な日々。
…それでも、その日は。
ほんの少しだけ、いつもと違ったことがあった。
「おっ? どうしてたんだ、久しぶりだなぁ」
「病気でもしてたのか?」
ここのところしばらく、姿を見せなかったクラスメイト。
彼が久しぶりに、学校にきた。
驚いたような声を上げる級友の間隙を縫って、その少年は赤い髪の少女に近付いていく。
少女は気付かない。
既に少年が机のすぐ前に立って、声をかけるタイミングを窺っていることにも。
「ごほんっ」
…散々悩んだ挙げ句、彼は白々しい咳払いをした。
ようやく、彼女も"誰か"が自分の前に立っていることに気付く。
が、それだけだった。
顔を上げようとはしない。
「えっと…長森…」
彼女が反応してくれないのに困った少年は、鼻の頭をかきながら、少し震える声で少女を呼んだ。
顔が赤くなっている。
どうやら少し気恥ずかしいらしい。
ゆっくり、少女の顔が上がる。
「あー…えっとだなぁ…」
「………」
「ずっと前から好きだったんだ……オレともう一度…付き合ってくれっ!」
「えっ…?」
…どうやら告白だったらしい。
教室の真ん中でものすごく恥ずかしいことを口走った少年、彼は、顔が真っ赤。一方、言われた少女の方は、鳩が豆鉄砲をくらったような表情。
長い沈黙。
気まずい空気。
騒がしかった教室内もすっかり静まり、皆の視線もその二人にのみ注がれている。
「うん…いいよっ」
久しぶりに。
本当に久しぶりに、意図せず浮かべた微笑みで。
彼女はそう言った。
…そこで、物語は終わり。
いつもなら。
だが、その日は。
ほんの少しだけ、いつもと違ったことがあった…。
教室中の喧噪に包まれて、祝福と冷やかしを受ける二人を…否、少年を、ただ黙って見つめる一対の瞳。
里村、茜。
Fortsetzung folgt.