…。
……。
………。
…がばっ。
………。
ぼりぼりぼり。
……ふぁ…ふ。
「んん〜っ」
伸び。
ぐきぐきと背中が鳴る。
「今日はあたしの勝ちね…」
目覚まし時計を人差し指で軽く弾きながら、独り言ちた。
…今日も驚かされてみっともない声を上げる前に、さっさとスイッチを切ってしまう。
そしたら、次は……。
「…の前に、まずは着替えた方がいいわね」
正直あたしは服装には全くこだわらない。家からでない日なんかは、余裕で一日中パジャマのまま過ごしてたりする。
……もっとも、学校は制服だから、そもそもこだわるポイントなんて、下着くらいしかないんだろうけど。どちらにしろ、あたしには全然関係ない。
…こんなんだから彼氏ができないんだ、とか母さんに言われた記憶もあるけど、関係ないと思うなぁ……。
「さて、それでは寝坊助の従弟殿を起こしにいきますか」
さっさと制服に着替えると、鞄の中身(といっても、筆箱とルーズリーフしか入ってないんだけど)を確認して、言葉通り雪也を起こしにいく…。
・
・
・
「ところで、前から聞きたかったんだけど…」
「え? 何?」
無事(…要は、昨日と同じ要領で雪也を叩き起こして)、朝食を摂って、外へ出る。
やっぱり外は寒かった。
…暖房費とか、馬鹿にならないんだろうなぁ……。
「薫くん以外の誰かに、あたしと雪也が従姉弟だって話した?」
「うん。話したよ」
「誰に?」
「みんな」
…一瞬、頭の中が真っ白になった。
「……誰に?」
「みんなに」
「みんなって誰?」
「クラスのみんなと、部活のみんなと、友達のみんな」
……一瞬、目眩さえした。
「聞きたくないけど、聞いていい?」
「いいよ」
「人数にすると何人くらい?」
「う〜ん……数え切れないよ…」
………一瞬、本気で転校したくなった。
「あれ? どしたの、ゆーこちゃん?」
「…別に」
本当に、"別に"。
何か問題がある訳じゃないんだけど、あたしはそういう、"誰かの何か"という先入観を持たれるのが嫌いなのよ。たとえば、"修平(兄貴の名前ね)の妹"とか、"葵(母さんの名前、ね)の娘"とか。
誰かの付属品みたいな呼ばれ方をするのが大嫌いな訳よ……ま、兄貴の言葉を借りるなら、自己顕示欲が強いそうだ。あたしは。
…ま、いいわ。あたしがどうこう考えたところで、他の人の記憶を飛ばせる訳でも、先入観を拭える訳でもないんだし。
「…さ。行くわよ、雪也」
「行くって…どこに?」
「……あんた、それ本気で言ってる?」
「勿論冗談だよ」
「………どこに行くの?」
「回覧板回しに」
わしわしわしっ!
「わひゃぁっ!? な、な、何するのさっ、ゆーこちゃんっ!?」
「どつき漫才」
「どつき漫才って、ハリセン持ってやる奴じゃないの?」
「そうよ、ホントはね」
「じゃあ、どつき漫才じゃないんじゃない?」
「いいのよ…それとも、ハリセンでどつかれたい?」
「…う〜、遠慮する……」
「よろしい」
…何が哀しくて、従弟相手に朝っぱらから漫才しなきゃならないんだろう。
「さ、行くわよ、雪也」
「うん、行くよ〜」
「回覧板は回さないわよ」
「…う〜」
……そんなに回覧板が回したいんだろうか、この子は。
「回覧板は帰ってきてからあたしが回しといてあげるから。ね」
「う〜、判ったよ……ゆーこちゃん、急ごう!」
「えっ? …どうしたのよ、急に?」
「涙を呑んで回覧板を諦めたんだから、これで遅刻したら僕が可哀想すぎるよ」
「…そりゃ、まぁ、そうかも知れないけど」
「ゆーこちゃん、遅いよっ!」
「あ、ちょっと、いきなり走り出さないでよっ!」
……別に、歩いたって遅刻するような時間じゃなかったのに、結局あたしたちは十数分間に及ぶランニングをする羽目に遭った。
…けれど、それは、また、別の話……かも知れない。
Fortsetzung folgt.
01/8/26 橘 和馬