……川に沿った道。
車両進入禁止の標識を曲がる。
そのまま二区画前進。
左に曲がる。
一…二…三軒目。
やわらかい色の門灯の灯る家。
玄関には『水瀬』の表札。
ドアを、開ける。
「……………ただいま」
言いながら、倒れるように玄関の縁に座り込んで靴を脱いだ。
足が棒みたいになっている。
…きっと明日筋肉痛。
「おかえり〜。待ってたよ〜」
ぱたぱたと廊下をやってくるのは、勿論雪也である。
……構図的に、酔っぱらって帰った旦那を出迎える新妻ってトコかしら。そんなものを想像してもらえると結構近いような気がする。
「…ただいま」
「おかえり。…今日もAくんと走ってたんだって?」
「……どうして知ってる訳?」
「帰りに薫に会ってね、その時教えてもらったんだよ。相沢ちゃんがハーフっぽい男の子と一緒に、たい焼き屋の親父から全力逃走してたぞって」
「…たい焼き屋のおじさんだってことまでバレてる訳ね……」
「みたいだね」
にこにこにこ。
あたしたち(当然、たち、は雪也のコトだけど)が犯罪者であることが判っているのかいないのか、雪也は随分ご機嫌だった。
文面だと判らないかも知れないけど、今の雪也は、いつもにも増して満面の笑顔だし、声も微妙に(…元が間延びしてるから判りにくいけど、慣れれば判るくらいには)弾んでいる。
…ま、あたしには関係ないだろうけど、一応。
「何かいい事でもあったの?」
「え? どうして?」
「随分ご機嫌だから」
「…そう?」
「間違いないわよ」
「…そうだとしたら、多分、今日の夕飯にシチューを作ったからだと思うよ」
「……」
「…僕、シチュー大好きだから」
つくづく判りやすいな、と思う。
「……」
もし雪也が無邪気に嘘をつくようになったら。
「うん。きっとそうだよ」
その時、あたしは…、
「…ゆーこちゃん?」
「ん?」
「シチューあっため直すからさ、その間に上行って着替えてきて」
「…判ったわ」
「うん。待ってるよ」
……最後ににぱっと笑みを残して、雪也、踵を返す。
翻ったエプロンがほんの少し風を起こして、あたしの頬を、撫でた。
とっとっとっとっとっ。
遠ざかっていく足音。
独りになる、あたし。
………夕食を摂った後、あたしはすぐ眠りについた。
歩くんに振り回されて疲れてたのもあるけど、それ以上に。
何も考えたくなかったから。
Wiedersehen am folgenden Morgen.
01/6/4 橘 和馬