blue snows

1月8日(中編2)

 

 

 …八分の一、ねぇ。
 運がいいんだか、悪いんだか。
「初めまして、相沢祐子といいます。急な転校で右も左も判らない状態なので、よかったら、いろいろ教えてやってください。よろしくお願いします」
 ぺこりと一礼。
 全く以て大したことは言ってないんだけど、それだけで、教室中から盛大な拍手が巻き起こる。…どころか、鬨の声さえ上がっている。
 当然、その騒動の中心にいるのは…。
「相沢ちゃ〜ん」
 机の上に立って皆を煽動している美坂薫と、
「ゆーこちゃ〜ん」
 薫くんに肩車されてその上から手を振っている水瀬雪也だった。
 ……頭痛い。
「…あーっ、と、君はそこの空いてる席に座って」
 大変だな、と目で語りかけながら、教室の一席を指さす担任教師。
 言われた場所は、窓側の列の一番後ろの席。
「……」
 …最悪の席取りだった。
「わ〜い、一緒のクラスだよぉ」
 これがすぐ隣にいて、
「よぉ、相沢ちゃん。久しぶりだな」
 こっちが斜め前にいる。
 …思わず、机の前で立ち止まってしまった。
 くるっ、と体を反転させて教師の方を見やると、彼は無情にも、頑張れよ、と目で激励を贈ってくれる。
 ……仕方なしに、あたしは、椅子に座った。
 こりゃ、少なくとも、女の子から爪弾きにされるのは目に見えてるわね…。
 なにあの女、ってニュアンスの視線がざくざく突き立てられている。
 そりゃ、雪也はともかく、薫くんは人気ありそうだもんねぇ…。
「どーした、相沢ちゃん。物憂げな目線でオレと雪也を見比べて」
「…別に。人生の不条理についてちょっと考えてみただけよ」
「八分の一なんだから、あり得ない話じゃなかったろ。相沢ちゃん、らっきぃ」
 …しっかり、何のコトだか判ってるらしい。
 この辺、雪也より話が早くてよろしい。
「……あんな熱烈な歓迎受けるくらいだったら、あたし、アンラッキーでいいわ」
「折角だから教えておくと、相沢ちゃんが他のクラスだった場合、オレと雪也で休み時間の度に陣中見舞いに行ってやる予定だったんだぜ」
「やっぱりラッキーでよかったと思うわ」
「だろ?」
 また笑みを浮かべる。
 …周りの女の子の視線が痛いってば。
 もう、担任の話なんて誰も聞いてないんじゃなかろうか?
 男の子さえ、あたしと薫くんを交互に見比べたりしてる(ような気がする)。
「しかし…意外に普通の自己紹介だったよな」
「…どんなのを期待してたのよ」
「いや…雪也なんか寝ながら自己紹介してたからな。相沢ちゃんならそれを超えてくれるだろうと信じてた」
 …妙な信用の仕方をされても困るわ。
 しかし…寝ながら自己紹介、と言われても、雪也ならあり得そうなところが怖い。
「念のため言っておくけど、あたしは雪也みたいに人間の限界に挑戦してないからね」
「…残念だ」
「僕、人間の限界に挑戦なんてしてないよ〜、普通だよ〜」
 いきなり割って入る雪也。
 何故か異様なまでに嬉しそうな表情をしている。
「嘘でしょ」
「嘘つけ」
「う〜。二人して考えもせずに…」
「あんな、両手使っても足りないくらい積んだ目覚ましが鳴っても朝起きれないんでしょ。どこが普通よ」
「う〜」
「この前、持久走寝ながら走ってたろ。永岡さんが腰抜かしてたぞ」
「う〜」
「それに、なんだかんだ言ってホントに九時に寝ちゃうし」
「う〜」
「放っておくと二十四時間以上平気で寝るしな」
「う〜」
「……ていうか、雪也の逸話って、睡眠絡みの話しかないの?」
「…そーいや、思い付くのってそーゆー話ばっかだな」
「う〜、ひどいよ〜。他にも思い付いてよ〜」
「だって、薫くん」
「ゆーこちゃんもだよ〜」
「………いい天気ね、薫くん」
「そーだな。教室の中にいるのが馬鹿らしくなるくらいいい天気だな」
「寒いけどね」
「う〜。ごまかしてる…」
「そんなことないわよ」
「ごまかしてるよ…」
「そんなことないぞ」
「う〜」
 ぽんぽんっ、と雪也の頭を叩きながら、薫くん。
 見た目はほとんど、高校生と小学生。
「ところで薫くん」
「なんだい、相沢ちゃん」
「…気が付いたらホームルーム終わってたりする?」
 もう既に、教室には半分も生徒がいない。
「……どーして今まで気付かなかったんだ?」
「さぁ…雪也がうるさかったからじゃない?」
「う〜。僕、うるさくしてないよ〜」
「そうか、雪也か……じゃあ仕方ないな」
「そうね」
「だから、違うよ〜」
「……つーか、ホームルーム終わったんだったらさっさと帰らねーか? 今日、雪降るぞ、多分」
「そうね…そろそろ雪也をからかうのにも飽きたしね…」
「う〜…やっぱりからかってたんだ…」
「何を今更。お前をからかうのはオレたちのライフワークだぞ。なぁ、相沢ちゃん?」
「そうよ。この命尽きるまで力一杯からかってあげるから、観念なさい」
「う〜」
 自分で言ってて、訳判らん。
 いくら楽しくても、一生涯からかうつもりはないぞ、あたしは。
「そういえば雪也、今日も部活?」
「え? ぶかつ? あ、うん、今日も走るよ」
「そか…」
「…? どしたの?」
 また、例の、唇に人差し指を当てて、首を傾げるポーズ。
 …似合ってるところが怖いわ。
 是非とも一度、女装させてみたいと思うんだけど。
「ううん、昨日は結局ほとんどどこも行ってないから、ちゃんと案内して欲しかったんだけど。部活ならいいわ。また今度頼むわね」
「うん…ごめんね、ゆーこちゃん」
「…なんならオレが案内してやろーか? どーせ暇だし」
「うーん…薫くんは部活やってないの?」
「……オレは帰宅部だぞ。英語でG.H.Q.ってヤツだ」
「G.H.Q.?」
「Go Home Quickly」
「…そう」
「少し返事に間があったな」
「気のせいよ、多分」
「ま、いーけどな。んで? オレが案内しようか?」
「………ううん、やっぱり遠慮するわ。クラスの子に見られでもしたら、それこそ楽しい毎日が始まりそうだしね」
「オレは気にしねーぞ」
「あたしが気にするの。女の子のグループ分けって古典的だからね、村八分食らっちゃうわよ」
「…そんなもんなのか?」
「そんなもんなの。一度女の子になってみれば判るわよ」
「それじゃ、未来永劫判りゃしねーな」
「残念ね」
「かもな」
「…う〜。話に入れないよ〜」
「つーか、雪也。お前部活だろ」
「う〜。行くよ〜、行くけど〜」
「判った判った。昇降口まで送ってってやるから」
「うんっ」
「…随分、雪也の扱い心得てるみたいね」
「そりゃ、五年も付き合ってりゃな。中学ん時から、ずっとクラス一緒だよ」
「保護者扱いされるでしょ」
「判るか? やっぱ」
 何故か雪也を肩車しながら、あたしと並んで教室を出る薫くん。
 教室に残っていた数人の生徒が、すれ違いざまに挨拶を交わしてくれた。
 とりあえず、それに応えて外に出る。
「…ちなみに、先に声かけてきた髪の短い方が北川ちゃん。髪の長かった方が斉藤ちゃん」
「……あたしに、覚えろと?」
「勿論。あと三十六人いるからな。一日二人で、月末までには全員制覇だ」
「努力はするわ」
「ふぁいとっ、だよ〜」
 …薫くんに肩車されて、随分嬉しそうな雪也。
 そりゃ…雪也の身長は相当低いから、人を見下ろせるなんてそうそうないから嬉しいんだろうけど…。
 あたしに言わせりゃ、父子だぞ、その構図。
「…今、オレと雪也が父子みたいだって思ったろ、相沢ちゃん」
「よく判るわね」
「なんか、微笑ましーもんを見た、って感じでにこにこしてたからな。…つーか、そーゆー表情見てると、雪也と血ぃ繋がってんだって思うわ、マジで」
「…複雑よ」
「……ね、ゆーこちゃん。父子って、ひょっとして僕が…」
『子供』
 きれいにハモった。
「う〜」
 雪也の言いたいコトなんて、容易に想像がつくわよ。
 ねぇ、と言わんばかりに、上目遣いで薫くんを見やると。
 …何故か彼は爆笑した。
「どうして笑うのかしら?」
「いや…もしオレと雪也が父子だったら、こいつの母親は相沢ちゃんだな、と」
「…えらく複雑よ」
「深く考えないことをお薦めするよ」
「そりゃどうも」
「う〜。薫が進んでくれないと、僕、部活行けないよ〜」
「おー、そー言やそーだったな。うし、行くぞ、雪也」
「出発、進行〜」
 …だから、それじゃまんま父子だってば。
「ほら、相沢ちゃん。何ぼーっとしてんだよ。行くぜ?」
「はいはい。行きますよ〜」
 三人で並んで(という表現が正しいかどうかは知らないけど)、ゆっくりと、薄明かりの廊下を歩いていく。
 …やたら目立つせいか何故か、誰かとすれ違うたび(といっても、ほとんどが女の子だけど)、雪也と薫くんは親しげに声をかけられ…あたしには、なんじゃこの女、的な視線が投げかけられる。
 やっぱり、薫くんと行動を共にするのは辛いかも知れない。
「雪也くんっ、明けましておめでとうございます」
「うんっ、おめでと〜ございます〜」
「今年もよろしくねっ」
「は〜い、よろしくお願いします〜」
 ……。
「薫先輩と雪也先輩って、仲いいんですねー」
「まーな。なんだったら代わってやるぞ?」
「ホントですかー? お願いしちゃおっかな…」
「だとよ、雪也」
「わっ、わわっ! 揺らさないでよ〜」
「くすくすっ」
 ……。
「雪也くん、今日も部活?」
「はい。そうですよ〜」
「やっぱりトレーニング?」
「いえ…今日は廊下にコース取って、少し走ろうと思ってます〜」
「そうなんだ…わたし、差し入れに行こうかな」
 ……。
 エトセトラエトセトラ。
 あたし一人なら絶対に五分もかからない廊下を、二人は三十分以上(勿論、時計持ってないから勘なんだけど)かけて通る。
 そして話しかけられるたび、あたしには不可解なものを見るような視線。
「…薫くん。これは新種のいじめかしら」
「何言ってるんだ、相沢ちゃん。オレたちは、相沢ちゃんが遭難するようなコトがあるといけねーと思って、こうして昇降口まで送ってるだけじゃねーか」
 …半分確信犯。
 もう半分は、ホントに好意なんだろうけど。
「う〜。薫、ゆーこちゃんいじめちゃ駄目だよ〜」
 一〇〇%、自覚ナシ。
「ま、いーけどな」
「薫くんが言ってどうするのよ」
「ん? なんとなく」
「あ、薫、ここでいいよ。そろそろ降りる」
 …全て言い終わるより早く、雪也、身軽に立ったままの薫くんの肩から飛び降りる。
 そりゃもう、ホントに、ひょいっ、て感じで。
 全く危なげもなくそんな軽業をこなし、薫くんから鞄を受け取って、ぴしっ、とあたしたちに向かって…ほら、あの、軍隊とかでやる、敬礼のポーズ、それを、した。
「それでは、水瀬雪也、只今より部活に行って参りま〜す」
「おう、陸部の未来のために頑張ってこいっ」
「うんっ。じゃあね〜、ゆーこちゃんっ、薫っ」
 肩越しに後ろを振り返って手を挙げながら、笑顔で走り去っていく雪也。
 …とことん元気なやっちゃ。
「さ、オレたちも帰ろうか」
「薫くんも同じ方向?」
「いや。正反対だ」
「そう」
「…一緒に帰りたかったかい?」
「それはまずないし、あったとしても絶対に嫌ね」
「クラスで爪弾きにされるのは嫌か」
「当たり前でしょ。これから一年間一緒なんだから」
「いろいろ大変なんだな」
「まぁね。でも流石にもう慣れたわよ。十七年も生きてればね」
「……だとすると、この先大変だぞ、相沢ちゃん。オレはまぁ、言われれば一歩引くくらいのあれはあるけど…」
「けど?」
「雪也にはないぞ」
「…雪也?」
「やっぱり雪也はノーマークだったんだな。思い返してみ。廊下ですれ違ったとき、オレが声かけられた回数と、雪也が声かけられた回数。どっちが多い?」
「………雪也、ね、多分」
「よくできました。…つーか、あいつ、オレよりよっぽど人気あるぜ」
「…何故?」
「あののほほんとした表情で見落としがちだけど、結構綺麗な顔してるだろ、まず」
 …そう言われてみれば、標準以上の顔よね、きっと。
「それから、あの性格、先輩方や同級生にウケがいい。こんな弟がいればいいのに、って大絶賛だ」
 実際にあんな弟がいたら、鬱陶しくてしょうがないコトが判るわよ。
 …でも確かに、傍目で見てる分には、いい弟分と見えなくもないかも知れない。
「そして、後輩たちには、たまに見せる真剣な表情がウケがいいな」
「…雪也が真顔?」
「そ。確かに、男のオレから見ても、あれは結構いいセンいってんじゃねーかと思うぞ」
「あたし、そんなの見たコトないわよ」
「そーか? …あいつが走ってるとこ、見たことねーか?」
「ないけど…」
「一度、陸部の練習でも覗きに行ってみ。見れるぜ」
「別に、そこまでして見たくないわよ」
「…雪也もかわいそーだよな、そこまで言われると。惚れられてんだろ? あいつに」
「多分違うわね。あたしもそうかと思ってたケド」
「何を根拠に…」
「別に…雰囲気ってやつかしら」
「…ま、いーか。オレがくちばし突っ込むコトでもねーだろーから」
「そうね」
「相変わらず素っ気ないねぇ…」
「まだ初めて会ってから三時間も経ってないわよ」
「っと、オレ、こっちだから」
「そう? それじゃ、また明日ね、薫くん」
「……明日も授業あったっけか」
「あるわよ。第一土曜日だもん」
「……担任の石橋氏には、オレは脳溢血で倒れたって言っといてくれ」
「善処するわ」
「頼んだぞ」
「はい。じゃあね、薫くん」
「またなー」
「………さて。あたしも商店街でも回って帰るかな」
 

 

Fortsetzung folgt.

 

 

SSの一覧に戻ります  和馬にメールを送ります  中編(1)へ  中編(3)へ

 

 


さて、いきなりですがごめんなさいです。

性別を変え、キャラを変えてこの作品は出来てるハズなんですが…

どうしても変換できなかった人が、三人います。

…このタイミングで言う、ってコトで判ってもらえるでしょうか?

一人は、栞です。

登場人物の男女比とか、物語の進め方を考えると…どうしてもオリジナルの方が都合がいい…。

とゆーか、そっちでプロット組んでるんで、修復できませんでした。

 

栞萌えの方、ごめんなさい。 <俺もだけど、さ

次回は、へっぽこな栞が出てきます。

 

01/1/21  橘 和馬