blue snows

1月7日(中編3)

 

 

「…雪也」
「なに?」
「何だったのかしら、あの少年A」
 あれからあと、ざっと商店街を歩いて回って。それだけでもう十分、陽は傾いていた。
「万引き少年?」
「それは判ってるわ」
「ハーフっぽかったよね」
「それはあたしもそう思う」
「共犯者?」
「一般的見地から言うと、そうなるのかも知れないわね」
「う〜ん…難しいよ…」
「…そういえばさっきから気になってはいたんだけど」
「うん?」
 またも唇に人差し指の第一関節を当てて首を傾げている雪也、不思議そうに、あたしの目を見上げてくる。
「それ、癖?」
「それ、って…どれ?」
「今やってる、唇に指当てるやつ。それから、その、首を傾げるのも」
 雪也、唇から指を離す。首の傾きを九十度に戻して、じっ、と指先を見つめる。
 …いや、指先見れば判るってもんでもないと思うぞ、あたしは。
 しばらく立ち止まってそうしていた後、
「判んない」
 言ってるそばから人差し指を唇に当てて、軽く首を傾げる。
 どうやら、完璧に癖みたいだった。
「あんた、学校でもよく子供扱いされるでしょ」
「…どうして判るの?」
「子供っぽいからよ」
「う〜、僕、子供っぽくなんてないよ〜」
「そういうトコロが子供っぽいの。…ま、大人っぽくなった雪也なんて怖い以外の何者でもないから、そのままでいいと思うわよ」
「…ひょっとしてゆーこちゃん、僕のコト褒めてる?」
「褒めてない褒めてない」
「う〜、寂しいよ〜」
 拗ねて、肩を落としてとぼとぼ歩く。
 なもんだから、ちょうど撫でやすい位置に雪也の頭が来た。
 わしわし。
「ひゃっ!?」
 いきなり頭をわしわしされるとは思ってなかったらしく、雪也が驚きの声を上げる。
 …おや。
「以外と柔らかい髪してんのね」
「う〜、よく言われる…」
「撫で心地いいかも知れないわ」
「それもよく言われる…」
 あまり頭をいじられるのは好ましくないらしく、雪也の声は少しトーンが低めだ。
「褒めてるのよ?」
「う〜」
 くすぐったそうな声を上げる雪也。
「くすぐったいの?」
「う〜、違うけど〜」
「じゃ、なに?」
「う〜」
 雪也の声はやっぱりくすぐったそうだった。
「髪の毛って意外とあったかいのよね。手袋なかったからちょうどいいわ」
「う〜、僕、手袋の代わり?」
 ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回す。
「うひゃっ!?」
「…にしても、意外な雪也の弱点を見つけたわね。これから、うるさいようだったらこれで黙らせることにするわ」
「う〜、ひどいよゆーこちゃん…」
 ぐしゃぐしゃ。
「ひゃぁっ!?」
「あたしをからかう伯父さんの気持ちが、少し判ったような気がするわ」
「判らなくていいよ〜ってひゃっ!?」
「やっぱり面白いわ」
「う〜」
 そういえば、昔、兄貴がよく雪也の頭をこうしていたような気がする。
 …気が付けば、あたしもあの時の兄貴の歳になったのよね。全然実感ないけど。
「雪也、兄貴にもよくこうされてなかった?」
「う〜、されてた…」
「兄貴も、教えてくれればよかったのにね。やっぱ楽しいことは独り占めしちゃだめよ」
「…それ、よくお父さんが叔父さんに言ってた」
「姪っ子だからね」
 ……結局、う〜、う〜、って言いながらも、雪也はあたしの手を振り払わなかった。
 雪也に言わせると、もうやめてね、ってコトらしいけど…うん、絶対にまた明日やってあげよう。口では嫌がってるけど、なんとなく嬉しそうにしてた気がする。きっと…あたしが伯父さんにからかわれてるときと同じような顔。
「ねぇ、ゆーこちゃん」
「んー? なにー?」
「晩御飯、何にしよっか?」
「何が作れるの? ゆで卵とかインスタントラーメンは料理に入らないわよ」
「う〜、レシピさえあれば大抵作れるよ」
 ぐさっ!
「…すごいわね」
「すごくないよ、普通だよ」
 どすっ!
 …謙遜のつもりなのかも知れないけど、それはあたしには相当痛い台詞だわ、雪也。
「あれ? どーしたの、ゆーこちゃん」
「……ちょっとね。ふっと雪也に殺意が芽生えただけよ」
「う〜、なんか不吉な予感が…ひゃっ!?」
 ぐしゃぐしゃ。
「う〜、うひゃっ!?」
 連続。
「ひゃぁっ!?」
「……勝ったわ」
「う〜、負けた…」
「…何に?」
「う〜、先に言い出したのゆーこちゃん…」
「雪也♪」
「え? って、ひゃぁぁぁっ!?」
 うーむ。やっぱり面白い。
「でも、からかってばっかりじゃ話が進まないわね」
「う〜、そうだよ〜、晩御飯の話だよ〜」
「…なんでもいいわよ。どうせあたしは居候なんだし」
「居候じゃないよ。一緒に暮らすんだもん、家族だよ」
「…かぞく【家族】 一つの家で共に暮らしている、血縁・婚姻関係で構成された人々。(旺文社国語辞典・第八版)」
「わ、辞典おぼえてるなんて、さすがゆーこちゃん」
 さすが、って…。
「でも、ね? 家族でしょ? 一緒に暮らすし、従姉弟同士だもん」
「あたしは爵位なんて持ってないわ」
「……しゃくい?」
「…判らないならいいわ。雪也にツッコミを期待したあたしがどうかしてたのよね…」
「………ひょっとして、褒めてる?」
「褒めてない褒めてない」
「…何の話だっけ?」
「家族の話。その前が晩御飯の話。更に言うならその前が雪也の頭の話」
「うん、そうそう、晩御飯だよ」
「だから、雪也の好きにしていいわよ。どうせあたしはほとんど手伝えないし」
「うん、期待してないよ」
 今、ひどいことを言われたような気がする。
 …気のせいだということにしておこう。でないとあたしが可哀想すぎる。
「それじゃ、晩御飯の材料買うから、スーパーに寄ってこ?」
「そうね。せめて荷物持ちくらいはするわ」
「え〜、いいよ〜。ゆーこちゃん女の子だもん」
「…あたし、そんな、荷物も持てないように見える?」
「そういう問題じゃなくて…やっぱり女の子に荷物持たせる訳にはいかないよ」
 意外とフェミニスト。
 うむ…これは将来、いい旦那になるに違いない。少なくとも、家事の苦手な女の子なら大歓迎だわ。
 しかし…それじゃあたしに立つ瀬がない。
「それでも、荷物持つくらいはしないと、あたしホントの役立たずじゃない?」
「いいの。ゆーこちゃんはいてくれるだけでいいの」
「…そう言ってくれるのは嬉しいけどね」
「僕ね、ずっと独りだったんだよ」
 …まただ。
 さっきも、手紙のことを話すときに見せた、どこか遠くを捕らえているような声。
 あたしは後ろから雪也の頭に手を置いてるから、その表情は見えないけど…さっきと同じ顔をしてるはず。遠くを見るような、懐かしむような目で、それでも少しだけ笑いながら。
「お父さんは朝御飯も食べずに仕事行っちゃって、僕は学校に行って、部活して、帰って来て…ずっと、独りで、ご飯作って、食べて…お父さん帰ってくるの、僕が寝ちゃった後で、それでまた、朝になって……ずっと、独りだったんだよ」
 ……。
「だからね? いてくれるだけでいいんだよ。僕、ずっと、誰かの為にご飯作りたいって思ってたし…」
 ぐしゃぐしゃ。
「うひゃあっ!?」
「…あんたってホント、面白いわねー」
「う〜、ひどいよゆーこちゃん。折角、一分しか保たないシリアスしてたのに〜」
「そういうことなら、あたしはもう何も言わないから、さっさと買い物して帰っちゃいましょ。あたし、冷え性なのよ」
「僕も冷え性…」
「ほら、だったらさっさと歩く歩く」
 雪也の頭から手を離して、今度はまた両手で雪也の両肩を掴んで、やっぱりぐいぐい押していくあたし。
 …あたし達が買い物を終えて外に出た頃には、太陽はすっかり地平線に沈み、夜の帳が視界を覆っていた。

 

Fortsetzung folgt.

 

 

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なんか知らないけど、珍しく一日で書き上がってしまった(笑)

二日連続でアップしたのって、初めてじゃないかな…うん。

やっぱし、俺的に祐子ちゃんのキャラが固まったのが一番の要因でしょう。

二人のスタンスもなんとなく決まったし。

…しかし、いい加減に1月7日が終わらないものかなぁ? 多分次で最後だけど…(苦笑)

 

 

00/12/11 橘和馬